インクルーシブ算数・数学教育の具現化に向けて
授業中に算数・数学がわからなくなっている子ども、数学の問題の解き方のみを覚えている子ども、わからないがゆえの失敗によって人間関係への影響を恐れて数学学習に参加しようとしない子どもは、全国のどこの教室にも存在するのではないでしょうか。このような子どもたちに対して我々教師は、ヒントカードや助言を与えたり友達と相談する時間を設定したりして、自分の考えをもたせたり、解き方について考えさせたり、考えに自信をもたせたりする手立てを講じてきていることでしょう。しかし、そのような手立てを講じても先に示した事例のような子どもたちはいなくならないどころか、学年進行に伴ってその人数が増えていっているのではないでしょうか。それは文部科学省の調査(2022)でも明らかです。このことは倫理的な不正義です。目の前に困っている子どもたちに対して、よいと思う手立てを講じ続けているのにも関わらず、その数が増え続けているというのは、構造的な倫理的な不正義でしょう。
我々は、これらの手立てについて理論的・実践的に研究を進めています。そして現在のところ、学級内のすべての子どもが参加する算数・数学教育としてのインクルーシブ算数・数学教育のための手立てとして、少なくとも次の4種のケアが学習に必要だと考えています。
1:発達的ケア、2:認知的ケア、3:認識論的ケア、4:共同体的ケア
(松島、2025) ここでのケアとは、気遣い、配慮、世話すること(岡野、2024)です。そもそもケアとは、権利や規則、抽象化や普遍性などを求める伝統的な社会正義に関する倫理学に対する倫理学として生まれました(Held, 2015)。このケアの倫理学は、他者への責任や関係性、文脈、個別性などを重視する倫理学です(ギリガン、2022)。数学学習の中では、教師が子どもをケアする、ある子どもが別の子どもをケアする、という状況が当てはまるでしょう。このケアする、ケアされる状況というのは、教室内では当たり前のことかもしれません。しかし、このケアの視点を数学学習に持ち込んで、数学学習を見直すとどうなるでしょうか。
<参考文献>
・文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2022)通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について.https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2022/1421569_00005.htm(2025年5月31日最終確認)
・松島充(2025)算数障害への支援:特別支援教育と数学教育のコラボレーションを目指して. LD研究,34,pp.28-34.
・岡野八代(2024)ケアの倫理:フェミニズムの政治思想.岩波書店.
・Held, V. (2015) Care and justice, still. In Engster, D. & Hamington, M. (Eds.), Care ethics & political theory (pp.19-36). Oxford University Press.
・ギリガン,C.著,川本隆史ら訳(2022)もうひとつの声で:心理学の理論とケアの倫理.風行社.
